債権譲渡禁止特約がある売掛金でもファクタリングが可能?改正民法の影響を解説

2019年12月現在、債権譲渡禁止特約が付いている売掛債権はファクタリングする事ができません。
しかしながら民法改正によって、債権譲渡禁止特約付きの売掛金でもファクタリングを利用する事ができるようになります。
本記事では改正民法の影響で債権譲渡禁止特約付きの売掛金がファクタリングできるようになる理由や、改正民法の条文について詳しく解説して参ります。
債権譲渡禁止特約付きの売掛債権がファクタリングしても問題ないのか、疑問にお持ちの方はご参考にしてください。
債権譲渡禁止特約とは


債権譲渡禁止特約とは、売掛債権の譲渡を禁止する特約のことです。
債権譲渡禁止特約が付いていると、当該の売掛金をファクタリングや売掛債権担保融資に活用することはできません。
債権譲渡禁止特約が付いている事が多い売掛債権の種類
債権譲渡禁止特約が付いている事が多い、売掛債権の種類としては以下の3つが挙げられます。
●クレジットカード債権
●大手・上場企業への売掛債権
●工事請負代金債権
クレジットカード債権は、クレジットカード支払い分をカード会社に請求する債権のことです。
クレジットカード債権がファクタリングできれば、法人相手の売掛金を持つ事が少なく、信用が低いと見られがちな小売業や飲食業でも、資金調達をする事が可能となります。
ただ実際にはクレジットカード債権には譲渡禁止特約が付いている事があるので、ファクタリングを利用しようと思っても、ファクタリング会社に買取を拒否されてしまう事が多々あります。
また大手・上場企業や建設業界は、取引相手が多く、取引形態が複雑化しやすいため、売掛金に対して債権譲渡禁止特約をつけている事がしばしばです。
債権譲渡禁止特約付きの売掛金はファクタリング不可能
債権譲渡禁止特約が付いている売掛金をファクタリングすることはできません。
ファクタリング契約の際には、取引先との取引基本契約書などの提出が求められます。
そのため債権譲渡禁止特約がついていることを隠そうと思っても、必ず発覚してしまいます。
また中には
「債権譲渡禁止特約付きの売掛債権だったとしても、買取可能!」
と謳っているファクタリング会社も存在しますが、そのような業者は悪徳業者である可能性が非常に高くなります。
もしも利用してしまうと、
●不当に手数料を多く取られる
●取引先に債権譲渡通知をすると脅される
●ヤミ金や詐欺のターゲットにされる
といった被害を被ってしまいますので、絶対に利用してはいけません。
また仮にファクタリングができたとしても、取引先はファクタリング契約自体を無効にする事ができ、支払いを拒否する権限も有しています。
債権譲渡禁止特約を破ってファクタリングを行った事で、信用を失ってしまう恐れも十分に考えられるでしょう。
民法改正で債権譲渡禁止特約付きでもファクタリングが可能になる


残念ながら、2019年12月現在では、債権譲渡禁止特約付きの売掛債権をファクタリングすることはできません。
しかしながら2020年4月から、改正民法が施行されることによって、債権譲渡禁止特約が付いていてもファクタリングが可能となります。
具体的には、民法第466条に「債権の譲渡性」という条文が付加されたことにより、譲渡禁止特約があっても譲渡の妨げにはならないと明文化されています。
1、債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2、当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3、前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4、前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
民法466条の第2項に、
「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。」
とあるように、債権譲渡禁止特約が付いていても、譲渡の妨げにはなりません。
したがって、債権譲渡禁止特約が付いている売掛債権であっても、ファクタリングを利用する事ができるようになります。
しかしながら民法466条の第3項と第4項も、債権譲渡禁止特約とファクタリングの関係性を理解するために重要な条文です。
続いて、民法466条の第3項と第4項の内容をそれぞれ簡単に解説して参ります。
民法466条「債権の譲渡性」の第3項
民法466条の第3項の条文は、
前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
というものです。
簡単に言い換えれば、
「債権譲渡禁止特約が付いている売掛債権が譲渡された場合、債務者(取引先)は、譲受人(ファクタリング会社)への支払いを拒否する事ができる」
という条文です。
改正民法では、債権譲渡禁止特約は譲渡を無効にすることはできないが、債務者は債務の履行を拒否する事は可能と定めています。
したがって、改正民法施行後、債権譲渡禁止特約が付された売掛債権をファクタリングする場合、売掛金の支払い方法は、
取引先から売掛金が入金された後、利用者がファクタリング会社に支払い
という2社間ファクタリングと同じ流れを汲むと考えられます。
民法466条「債権の譲渡性」の第4項
民法466条「債権の譲渡性」の第4項の条文は、以下の通りです。
前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
この条文を簡単に言い換えると、
債務者(取引先)が売掛金の支払いをせずに一定期間、支払督促にも応じなかった場合は、譲受人であるファクタリング会社が直接、債務者に支払いを督促する事ができる
という事です。
なおその際には、第3項は適用されず、債務者(取引先)はファクタリング会社への支払いを拒否することはできません。
改正民法とファクタリング


改正民法では、債権譲渡禁止特約が付いている売掛債権であっても、ファクタリングや売掛債権担保融資を活用する事ができるようになります。
債務者(取引先)は、債権譲渡に承諾をしていない場合、譲受人への支払いを拒否する事が可能です。
そのため債権譲渡禁止特約がついている売掛債権をファクタリングする際には、2社間ファクタリングがメインとなると考えられるでしょう。
また債務者が売掛金の支払いに遅れてしまったり、催告に応じない場合は、ファクタリング会社が債務者に直接、債権回収をする事も可能となります。
なおファクタリングに遡及義務(償還請求権)が無い、というのは改正民法施行後でも、変わりません。
そのためファクタリング利用後に取引先が支払いに遅れたとしても、利用者が弁済をする必要はありませんので、ご安心ください。
まとめ
現行法では債権譲渡禁止特約が付いているとファクタリングを利用する事ができません。
しかし改正民法が施行された後には、債権譲渡禁止特約が付いていても、ファクタリングを利用する事が可能となります。
そのため大手企業相手の売掛金や、クレジットカード債権など回収リスクが低い優良売掛金をファクタリングに活用する事ができ、中小企業や小売業・飲食業の事業者にとっては資金調達方法の幅が広がると考えられます。
ただ取引先(債務者)はファクタリング会社への支払いを拒む事ができる権利が認められている、という点には注意が必要です。
取引先に通知せずに債権譲渡を行うことは、取引先との関係性に傷が付きかねません。
そのため債権譲渡禁止特約付きの売掛債権をファクタリングする場合には、取引先に通知不要な2社間ファクタリングでのご利用をオススメします。